――40代、女性
 

父の死で身にしみた借金の怖さ

両親がパチンコをやっていたので、私も小学校低学年から店に出入りしていました。常連客や、ホールのおじさんとも顔なじみで「来てたのか。裏で子猫が生まれたから見せてあげるよ」と、かわいがられていました。パチンコに怖いとか汚いとかいうイメージはなく、「家族」を感じる楽しいものだと思っていました。

初めて玉をもらって打ったのは小学校低学年の時。それからまもなく、父がパチンコ屋で心臓発作を起こして亡くなりました。父は市営バスの運転士をしていましたが、家に父がいた記憶はあまりありません。父が亡くなった後に、隠していた借金も見つかり、「パチンコ屋で死ぬなんて恥ずかしい」「母子家庭でどうしていくんだ」と、親戚が深刻に話していたのを覚えています。

翌年、母が看護師として復職しました。母はやりくり上手だったので、生活に不自由を感じたことはありませんでした。４つ上の姉もいましたし、隣に住んでいた、いとこのお姉ちゃんが身の回りのことを母のように面倒をみてくれました。

　一人で店に出入りするようになったのは、高校１年の終わり頃。クラスの男子が「パチンコで勝ったお菓子を分けてやるよ」と自慢げに言うのを聞いて、換金できることを知らないのかなと鼻で笑っていました。３年になると、就職組だった私はひまになり、バイトをしながら自分のお金でパチンコをするようになりました。当時はまだ友達との約束がない日に遊びの範囲でやっていました。

　美容関係の販売員として働き始めた21、2歳の時、クレジットカードのキャッシング機能で初めて1万円を借りました。返済の請求金額が１万１０００円で来たので、びっくりして２度と借りませんでした。当時は女性でもけっこうなボーナスをもらえていたので、月々の不足分は預金かボーナスで穴埋めしていました。借金をすることは父が死んだ時、母とサラ金の返済に回った記憶もあったので、自分にとっては「怖いこと・いけないこと」という印象が強かったと思います。

きっかけは育児ノイローゼ

「お父さんがみる日」にパチンコへ

パチンコの打ち方が変わったのは29歳で結婚し、出産・育児のために仕事を辞めてからでした。何事にも完璧主義だった私は家事と育児に打ち込みましたが、俗にいう「育児ノイローゼ」になりました。長男が８、９カ月になった頃、落ち込んだり、涙を流したりする私を見かねた夫が休日に「子どもをみているから、のんびりしておいで」と２万円をくれました。

何をしようか決めかねた私は、とりあえずパチンコ屋に入りました。２年ぶりのホールは女性を意識した内装に生まれ変わり、パチンコ台の電飾も華やかになっていました。しかも、５０００円も使わないうちに確変という大当たりが出てあっという間に２、３万円のお金を手にしました。久しぶりに自力で手にしたお金でした。「１日遊んできていいよ」と言われていましたが、午後の３時か４時には子どもが心配になって急いで帰宅しました。

それからというもの、夫は月に１度は「お母さんのお休みの日」をつくってくれるようになりました。迷わずパチンコ屋へ行くようになった私は、何度か通ううちに「負けた悔しさ」や「もうちょっとやりたい気持ち」を抑えられなくなってきました。段々と週末のたびにパチンコに行くようになりました。正月準備のためにおろした６万円をパチンコで使いきってしまい、正月にパチンコで取り返したこともあります。

週末に家族で過ごす楽しい計画を立てれば、パチンコに行かなくなるのではと考えて、車をファミリー向けのワゴンに買い替えたこともあります。止められたのは３、４カ月だけで、また週末のパチンコ通いが始まりました。夫の盆と正月の長期休暇も、すべて私がパチンコに使いました。

やがて、１カ月の給料ではどうにもならなくなり、ボーナスを使い込み、独身時代の二人の貯金をもち寄った定期預金にも手をつけました。度々しらふに戻り「こんなことじゃいけない」と思いました。勝ったお金を子どものおもちゃや家族旅行、外食に使うことで罪悪感を払拭し、つじつまを合わせていました。

　長男が幼稚園の時、次男を妊娠しました。お金をどぶに捨てるくらいなら、財産になるものを残そうと、私の実家から歩いて５分もかからないところに中古マンションを買いました。車を手放し、だんなの実家から２００万円援助してもらって頭金を作り、35年ローンで買いました。突発的な計画を即実行に移す。まさに、依存症者にありがちな行動です。

学資保険も婚約指輪も換金

無認可保育園に１日３万円超

　実家が近くなったことで長男を預けやすくなった私は、次男を妊娠中にもかかわらず、毎日のようにパチンコへ行くようになりました。次男が生まれる頃には、夫や自分の銀行のカードでキャッシングをするようになっていました。

子どもの学資保険を切り崩し、自分の生命保険も解約しました。婚約指輪も質に入れて、借金返済とパチンコのお金をつくりました。隠していた質札が夫に見つかり、あるはずの貯金がなくなっていることがばれ、温厚な夫が「いい加減にしたらどうだ」と怒るようになったのも、この頃からです。実家の仏壇からお金を盗み、母の指輪も質に入れました。私の仕業だと知ってしまえば、自分が崩れてしまう気がしたのでしょう。10年以上も経った昨年になって、ようやく母は「あんただよね？」と口にしました。

　次男が生まれると首もすわらないうちに「買い物に行くから」と実家に預け、長男が幼稚園から帰るまでパチンコをしていました。そのうち「毎日６時間も何してるの？　どうせパチンコでしょ」と嫌みを言われるようになり、もっと自由にやりたいと思うようになりました。

そんな時に知ったのが、１時間１８００円で預かってくれる無認可の保育園でした。かなりの額ですが、当時は確変が出れば１万２０００円ほど手に入ったので、「勝てば済む話でしょ」と思っていました。朝の8時には次男を保育園に預けて、タクシーでパチンコ屋へ向かいました。初めは正午か３時頃まで次男を預けていましたが、夫の帰りが遅いのをいいことに、幼稚園から帰ってきた長男も一緒に夜９時頃まで預けるようになり、１日の支払いが３万円を超えることもありました。

「保育園行きたくない」とぐずる長男に「おもちゃ買ってくるから」と言い聞かせ、アイスを食べさせながら連れて行きました。でも帰る頃にはデパートもおもちゃ屋も閉まっているし、負ければ買ってあげるお金すらありません。そんな生活の中で長男は激しく怒ったり、不安を訴えたり、大げさに喜んだり情緒不安定な面を見せるようになりました。

手づくりだった弁当も、コンビニで買ったパンや弁当を詰め替えただけのものになり、幼稚園の発表会にも行きませんでした。幼稚園から「１度お話を」という呼び出しに対して、自分で「行きます」と約束をした日もパチンコをしていて忘れてしまいました。最終的には月謝まで滞納し、母が代わりに払ってくれました。

それでも、パチンコ屋の駐車場で車内に置き去りにされた子どもが熱中症で亡くなったとか、店内についてきていた子どもが連れ去られた事件をテレビで見るたびに「お金を払って安全な場所に子どもを預けているから私はその人とは違う」と思っていました。

パチンコ屋で死ねたら本望

薬も効かず、泣きながら打つ

いつも他人に預けられ基本的な愛情を受けずに育った次男は、泣きもぐずりもしない子になりました。せめて初節句くらいはちゃんとしたお祝いをしてあげたいと思って、両方の実家に声をかけました。でも５月３日あたりから大負けして、仕出しの弁当代も使い果たしてしまいました。引くに引けなくなり、５日は開店と同時にパチンコをしていました。携帯には実家や仕出し屋から何十回も着信がありました。だんなの実家の両親は、あきれて帰ってしまいました。パチンコ屋まで迎えに来た従姉妹とも店の中で大げんかになりました。パチンコに行けば誰かが悲しい思いをするとわかっているのに、「行かなきゃ」という気持ちが抑えられませんでした。死に物狂いでやらされているパチンコに楽しさは感じなくなっていました。

優しかった夫が口を利かなくなり、帰ってきても寝ているだけの姿を見て、私も父のようにパチンコ屋で死ねたら本望だと思うようになりました。自分で稼いだお金なら大事に使うんじゃないかと思って、週末にパートも始めましたが続いたのは２、３カ月でした。パートの前にパチンコをやるようになり、仕事に遅れるようになり自分からやめました。

　母の勧めで、保健所に相談にも行きました。保健師さんからアルコールの自助グループを教えてもらいましたが、「若い女性がいないかもしれない」のひと言で行く気をなくしました。相談する中で「学生時代に摂食障害になり、うつ病と診断されたことがある」と打ち明けると、精神科にかかることを勧められました。

精神科では「ギャンブルをやりたい気持ちを止める薬」として、精神安定剤か何かを処方されましたがパチンコは止まりませんでした。１度に１シート飲んでも、ふらふらになるだけで泣きながらパチンコを続けました。

そのうち、保育園代も出せなくなった私は会社に電話し、仕事中の夫を呼び出しては「子どもをみてほしいから帰ってきて」と頻繁に言うようになりました。これには、さすがの夫も「会社に妻は頭がおかしいから大目にしてほしいと言っている。俺の気持ちにもなってくれよ」と激怒しました。その言葉を聞いても私は、彼の気持ちを理解するどころか、「自分の妻を狂ってるって言うなんて許せない」と逆に夫を恨みました。本当におかしくなっていたんだと思います。

初めて何も考えられなくなり

34歳の誕生日に病院へ

 　そしてついに、サラ金に手を出しました。その最初の返済日も来ないうちに、私はどうにもならない事態に陥ってしまいました。

いつものように、次男を保育園に預けてパチンコへ向かう私の携帯に、姉から「下の子を保育園から引き取ってきたんだけど、今どこにいるの？」と電話がかかってきました。姉は、私にとってとても恐い存在でした。「ほっといて」と電話を切りパチンコを始めたものの、その日財布に入っていた6000円はあっという間に使い切り、初めて何も考えられなくなりました。

それから数時間、おそらくバス停に座っていたのでしょう。ふと気がつくと夕方で、家に帰ると母、姉、いとこ、夫、子どもたちが家で待っていました。姉が「この子のギャンブルは病気だから、明日、依存症の専門病院に連れていってちょうだい」と夫に言いました。翌日、彼は仕事を休んで病院に私を連れて行ってくれました。

忘れもしない、その日は私の34歳の誕生日で、結婚記念日でもありました。私が途中で逃げないようにと、夫に手をつながれて病院へ向かいました。途中で大きなパチンコ屋を見た途端、身震いがして「最後に１０００円だけ打たせて」と泣いて座り込みましたが、数十分後には断念して立ち上がりました。私の話を聞いた医者は、「ギャンブル依存症という病気です」と説明してくれました。そして治療の場として、ギャンブル依存症の自助グループのミーティング会場を教えてくれました。

先生の「病気」という言葉を聞いてほっとしたのを覚えています。これまで何かをしてパチンコを忘れようとしてきましたが、初めてダイレクトにやめるための方策を教えてもらいました。夫にサラ金の借金を打ち明けてすべて返済してもらいました。それから毎晩、夜の７時からのミーティングに通いました。子どもをお風呂に入れて実家に預け、医者からのアドバイス通り、交通費だけを家族から受け取って、夜９時には帰って子どもを寝かしつける。そんな毎日でした。

だけど今思えば、そのときの私は単にパチンコをやめただけでした。「人に頼っておいて、うまくいかないと人のせいにする」「理想ばかりが高く、現実の自分を見ようとしない」そういう生き方のゆがみは、そのままでした。

いつか子どもと会う日のために

ギャンブルのない１日を過ごす

ちょうど「アダルトチルドレン」という言葉がブームになったこともあり、「この家に生まれたから」「こんな結婚生活だったから」私は依存症になったんだと考えるようになりました。私は、「このままだと、またパチンコをやってしまう」と理由で一方的に夫と離婚しました。子供ふたりは、夫が引き取りました。パチンコをやめて10年以上経ちますが、当時の自分の幼さに気づけるようになったのは、ここ４、５年のことです。

自助グループのプログラムに、「傷つけた人に埋め合わせをする」というステップがあります。これまでにつぎ込んだ額は、パチンコだけでも約１５００万円。行くために使った諸々のお金を考えると返せる額ではありません。８年前からお金の返済というより「子どもたちに」と毎月２万円を元夫の口座に振り込んでいます。毎月給料から振り込むたびに「今月も払えたってことは、パチンコをやってないってことだ」と自分自身に確認しています。子どもには想像しきれないほどの影響を与えてしまいました。元夫の意向で子供たちに会うことはしていませんが、陰ながら成長を見守っています。その時が来るかどうかはわかりませんが、いつか子どもが会いたいと言ってくれたら、自分のしたことを心から謝りたいと思います。

今は自助グループに週３回参加して、月に１度は女性のギャンブル依存症の回復施設にメッセージに行かせてもらいながら、ギャンブルをしない日々を続けています。自助グループには、同じ苦しさを味わった経験と同じ解決策を見つけた仲間がいます。世間から見れば「ばかな女」の話を聞いて、年齢も環境も違う人達が「そうそう。わかっているのに、やっちゃうんだよな」と笑ってくれます。そして、そんな彼らが「今ギャンブルをやめられている事実」が目の前にあります。仲間の中で自分の生き方や、人とのつき合い方についても振り返るきっかけをもらいました。イラッとしたり、自分だけ貧乏くじを引いたような気になった時の「気持ちの切り替え方」を学んでいるところです。

パチンコをする女性はあっという間に増え、パチンコ屋の中にはレディースコーナーもできました。インターネットで「ギャンブルが止まらない」と検索すれば、依存症に取り組んでいる施設や当事者のブログが、ずらっと出てきます。パチンコ屋に貼っているビラや、テレビの依存症特集を見て自助グループに来る人もいますが、今ギャンブルが止められずに苦しんでいる人の数からみれば、まだまだ少ないように思います。

今、ギャンブルで苦しんでいる人にも解決策はあります。だから一人で抱え込まずに外へ一歩踏み出して、ぜひ自助グループに足を運んでみてください。