――40代、女性

祖父母はギャンブルで借金まみれ

一緒に暮らす彼とパチンコへ

私の実家は、母方のおじいちゃんもおばあちゃんも母もパチンコをやっていました。おばあちゃんに初めてついていったのは、たぶん幼稚園か小学生の時。まだパチンパチンはじく頃のパチンコ台で、お菓子をもらって帰ってきたのを覚えています。おばあちゃんも、ギャンブル依存症だったんだと思います。「また、パチンコに行くんだろう」と、家の中ではつまはじきにされ、最期は借金まみれで死んでいきました。

おじいちゃんにも競艇か競輪に連れていかれたことがあります。嘘をついて会社を休んだり、借金取りから電話がかかってきたり、寸借詐欺で捕まったこともあると、のちに母から聞きました。

20代の頃、バイトの帰りに母と待ち合わせをした時も「打っているから、おいで」とパチンコ屋に呼ばれ、お金をもらって一緒に打ちました。だけど、それも１回きりで、次に行ったのは30歳の時。一緒に暮らしていた彼に「ひまだから、パチンコでも行こうか」と誘われて行きました。

初めはパチンコだけでしたが「出ないから、スロットもやってみるか」とスロットも覚え、交互に打つようになりました。最初のうちは「女が一人で行くような場所じゃない」と思っていたので、週末にだけ二人で行くようにしていましたが、だんだん本気になってきて、平日の仕事帰りにも寄るようになりました。

お金がある時は、ほぼ毎日。夕方５時半とか６時頃から夜の９時、10時まで。彼の仕事が遅い日は閉店の11時近くまでいました。彼は適当に切り上げることができる人だったので、途中で「帰ろう」と言われるのがいやになったのかもしれません。一人で行くほうが、いいように思えてきました。

　それからまもなく、給料がなくなっても打ちたい気持ちを抑えられなくなって、駅の近くの消費者金融で１万５０００円を借りました。実家が借金まみれだったので、お金を借りるなんて怖くて、20代の頃は１度もしたことがありませんでした。仕事は、ガソリンスタンドのパートなどを転々としていましたが、それでも14、５万円はもらっていて、家賃は彼が出してくれていたので、自由になるお金はたくさんありました。

パートの合間に売春

もらったお金はすべて軍資金に

にもかかわらず、その後も自分の銀行口座のような感覚で、２万、３万というお金を月に何度も借りました。利息を返しては、また借りて……と意味のないことを続けているうちに、借金は70万円を超えました。そこで、お手上げ状態となり、彼にも話すことができなくて、32、３歳の時、母に肩代わりをしてもらいました。

借金は２社あったのですが、「もう借りられないように、カードを切れ」と言われるのがいやで、70万円を借りていた１社分しか言いませんでした。それどころか、泊まりで来てくれる母のために、どうしてもビジネスホテル代だけは出したくて、新たに１万円を借金。もう、「なければ借りればいい」という発想しかなくなっていたんだと思います。

　ちょうど、この頃から、パートの合間に売春をするようになりました。

ギャンブル依存症になる前から、私には性依存症の傾向がありました。23歳で結婚していたにもかかわらず、テレクラで知り合った男性と一夜を過ごすことを繰り返していました。体さえ差し出せば抱きしめてもらえるし、一瞬でも満たされたような気になれる。だけど帰る頃には「なんで、こんなことをやっているんだろう」と、むなしくなりました。ただ当時は貯金もしていたし、お金には困っていなかったので、金銭の授受はありませんでした。

20代の終わりに、だんなと別居。籍を入れたまま、別の男性と暮らし始めたところ、だんなが「好きな人ができた」と言うので、「私も実は別の男性と暮らしている」と正直に打ち明けて離婚となりました。

こんな経験もあったので、知らない男性と肌を合わせることに抵抗はありませんでしたが、ギャンブルを始めてからは金銭を受け取り、出会い系サイトや風俗店を通じて男性と関係をもつようになりました。彼には「会社に行ってくる」とか「残業で遅くなる」と嘘をついては男性と会っていましたが、もしかすると気づいていたかもしれません。

　男性からもらったお金は、すべてギャンブルの軍資金に消えました。パチンコは打っている間は落ち着きますが、出なくなってくると「もうできなくなる」と焦って、いらいらします。「また行かなきゃ」という強迫観念に駆られ、「頭が痛い」「おなかが痛い」と嘘をついては昼間のパートも休むようになりました。

３００万超の借金で自己破産

母、彼、元同僚に嘘をついて無心

ただ、いい人を演じたかったので、無断欠勤はしなかったし、50万円、60万円というお金を銀行からおろす機会があっても、会社のお金には手をつけなかった。その代わり、彼の財布や貯金箱からはお金を盗んだし、「猫の病院代がない」「生活費が足りない」と言っては母や彼に、お金を無心しました。父にも「パソコンを買いたいから」と嘘をついて借りることはありましたが、怖いので、きっちり返すようにしていました。

37歳になる頃には借金は５社まで増え、総額は３００万円を超えました。ここまで来ると彼にも言えないし、もう母に頼めるような額でもありません。電話帳で近所の弁護士事務所を調べ、そこから無料の法律相談窓口を紹介してもらいました。

さっそく自己破産の手続きに入りましたが、パチンコなどの遊興費で借金をした場合は身辺調査をする管財人を立てる必要があるそうで、25万円の費用を一括で払わなければならなくなりました。そこで、保険外交員だった母が私に掛けてくれていた生命保険を勝手に解約。返戻金から支払いました。

いつも父には黙っていてくれた母も、たまりかねたのでしょう。すぐに父から「お母さん、泣いてるぞ。お前は病気だ」と電話が来ました。それまでにも「うちが貧乏で申しわけない」「ものを売って、お金をつくった」と母に言わせては、さんざん泣かせてきたのに、ギャンブルは止まらなかった。どうやったってギャンブルが第一でした。

　自己破産をすると借りるところがなくなります。母や彼への無心だけでは足りず、前の職場の同僚にも電話をかけまくりましたが、「貸したら関係が崩れるから」と断られ、貸してくれたのは一人だけでした。

　彼に嘘がばれた時も「もう２度と行かない」と泣いて心から誓うのに、次の日にはけろっとして行っていました。負けて帰る客を見れば、やめられるんじゃないかとパチンコ屋でアルバイトをしたこともあります。意気消沈して帰る客を見た瞬間は「私と一緒で悲惨だな。もう来なきゃいいのに」と思うんですが、休みの日になると店の子たちとパチンコを打ちに出かけていました。

借りてはいけない親戚から借金

気になっていた回復施設に電話

　インターネットで「ギャンブル依存症」という言葉を知り、自助グループにも足を運びました。しかし、大きな会場には男性ばかりが数十人いて、やっと女性がいたと思ったら「息子の代わりに来た」という母親でした。「会社の金を横領した」とか「借金で困っている」という話を聞いて、自分と重なる部分もあるんですけど、その時は「だからって何だろう」としか思えなかった。終わったあとに、誰からも話しかけられなかったのも寂しかった。

女性の当事者だけが参加できる「クローズド・ミーティング」も探したのですが、私が勘違いをしていたのか、会場が閉まっていて「もう自助グループなんか信用できない」と思い込んでしまいました。

　41歳になり、最後に頼ったのが親戚のおじさんでした。家庭環境が複雑だった母が一時期、兄弟のように一緒に暮らしていた男性で、私のこともかわいがってくれた。「彼からだけは借りないでよ」と母が釘を刺していた人でした。

　いつものように「生活費が足りない」「猫の病院代がない」などと同情を買えそうな嘘をついて、10万円を借りましたが、「これで一発当ててやる」と勝負に出て、１週間でなくなりました。もう１度借りた10万円も、また１週間でなくなってしまった。手元に一銭もなくなった時、「私、何やってるんだろう」、「このまま体を売り続けられるわけもないし、こんなことをいつまで続けるんだろう」と放心状態になりました。家まで、どうやって帰ったのかも覚えていません。　

　次の日、パチンコに行くつもりで取っていた有給休暇を利用して、依存症で有名な精神科の病院へ行こうと予約を入れました。だけど、その前にどうしても話をしたい人がいました。以前からホームページを見て気になっていた、ギャンブル依存症の回復施設の代表で、彼女自身もギャンブル依存に苦しんだ当事者でした。

電話をかけると「今なら、お昼のミーティングに間に合うよ。来る気があるなら出ておいで」と言ってくださった。病院をキャンセルして、すぐに施設へ向かいました。「私は病気です。これまで迷惑をかけました」と母に長い謝罪のメールを打っているうちに、電車の中なのに泣いてしまいました。

しんどいのに、自覚するひまを自分に与えず

命だけ生きながらえてきた

仕事して、ギャンブルやって、体を売って。意味がわからないくらい忙しかった。いつも気を張っていて疲れていた。すごくしんどいのに、自覚するひまも自分に与えず、命だけ生きながらえてきた。そんな毎日を、やっと終わりにできるかもしれない。そう思いました。

施設長から「よく来たね。よく生きてたね」と迎えられた私は、これまで自分がやってきたことをひと通り話して号泣しました。「この人なら、わかってくれるかもしれない」と強く思いました。ミーティングの間も涙は止まりませんでした。

施設長から「あなたのは仕返しのギャンブルね。子どもの時に寂しい思いをして、そのことへの怒りがうらみに変わったのよ」と言われて納得が行きました。

私が６歳の時、4つ下の妹が入院して家にぽつんと残されたことがあります。おばあちゃんはパチンコ。父は仕事を転々とし、お酒を飲みに出かけてはいつも遅くまで帰らず、「私なんか、この家にいらないんだな」と思った私は、台所から包丁をもち出しました。自殺といえば「お侍さんの切腹」のイメージしかなかったんです。暗い台所で、おなかに包丁を突き立ててはみましたが、痛そうで、怖くて刺せませんでした。

結婚したら、実家とは違う温かい家庭を築きたいと思っていました。ところが、両親に「孫はまだか」と言われた途端、子どもなんか生みたくないことに気づいてしまった。なぜそう思うのか知りたくて、インターネットで調べていくうちに「アダルトチルドレン」という言葉にたどり着きました。いつも家の中はごたごたしていて、誰かがけんかしていて、お金の問題があって、長女の私が母の聞き役でした。

ところが、「そんな家庭に生まれて大変だったね」と慰めてくれるかと思っていた施設長は「あなた、いくつよ？　もう親のせいじゃないよね」と、きっぱり。ショックでした。それから依存症に詳しい精神科の病院を受診し、「ギャンブル依存症」の診断を受けました。

がりがりに痩せた父の涙で

両親に対する見方にも変化

医者からは「このまま回復施設と自助グループに通ってくださいね」と言われましたが、初めは「あなたは重症だから、仕事をやめて回復に専念しなさい」という施設長の忠告も耳に入らなかった。半年前から始めた介護の仕事と、夜のラーメン屋のアルバイトを始めようとしていて、週に１度だけ回復施設と自助グループに通っていました。当時はまだ自分が重症だという自覚がなかったし、環境も変えたくなかった。「ギャンブルさえやめればいい」と思っていたんです。

ところが、ギャンブルをやめてからというもの、仕事で失敗しても、人間関係でつまずいても、つらくて職場で泣いてしまうようになりました。これまではギャンブルをすることで、何も感じないようにごまかしてきた。でも本当は問題は何も解決していなくて、ただ積み上げていただけでした。「自分と向き合わない限り、どうにもならないのかもしれない」と、もう１度、底を突いたような感じがしました。

彼と相談の上、いったん別居することを決めた私は仕事をやめて、生活保護を受けながら一人暮らしを始めました。朝から夕方５時まで回復施設のミーティングに出て、夜は外の自助グループに参加する毎日を１年半続けました。回復施設の仲間に連れていってもらった自助グループの会場では温かく迎えられ、終わったあとに何人かが駆け寄ってきて、「これから、よろしく」と握手をしてくれました。

両親に対する見方も変わってきました。親戚に預けられた経験もある母は、親の愛情を十分に感じられなかったから私に伝えることも難しかったんだと、今なら理解できます。そして３年前、父ががんになりました。手術の前の日、母が「久しぶりに家族４人そろうね」と言った途端、がりがりに痩せた父がわっと声をあげて泣き出したんです。短気で、けんかっ早い父も、そういうことをうれしいと感じる人だった。

その姿を見た時に「何をうらんでいたんだろう。今までさんざん心配かけて、苦しめてしまったな」と、やっと思えるようになりました。子どもの頃から心を開かず、言ったってわかってもらえないだろうと勝手にあきらめていたのは私のほうでした。

いまだに見るギャンブルの夢

先行く仲間の経験談が希望

回復施設と自助グループにつながって、もうすぐ４年経ちますが、ギャンブルをやりたい衝動は起きていません。ただ、パチンコを打ったり、両替をしている夢は見ます。ついこの間も「わっ、やってしまった。正直に言わなきゃ」と思ったら夢でした。

ここまで、やめられたのも仲間のおかげです。家族に話しても傷つけて泣かせるだけの話が、ミーティングでは仲間の役に立つ。私自身も先行く仲間のギャンブルが止まり、家族とうまくいっていて、仕事も続いているという話を聞くと希望になった。仲間と何でもない話をして心から笑えるようにもなりました。物事をせかせか考えることもなくなり、おだやかさを取り戻しつつあります。

今は週に２、３回、ギャンブル依存症の自助グループに通いながら、性依存症の自助グループにも参加しています。別居していた彼とは最近、入籍しました。自助グループの中で、自分の体験に基づいて助言をしてくれる「スポンサー」とも相談の上、性依存のことは彼には話していません。

これまで、ギャンブルにつぎ込んだ額は２０００万円。親戚や知人には少しずつ返していますが、母にはまだ返せずにいます。母は「あんたが元気で、自分の生活を送ってくれれば、それでいいよ」と言いますが、いずれは返したい。まずは「元気にしてる？」と、時々電話をかけることから始めています。

今、ギャンブル依存に苦しんでいる人も、出会いによって状況がよくなることはきっとあるはず。解決法はいくらでもあるから、一人で抱え込まないで、誰かに助けを求めてみてください。